正欲 / 朝井リョウ

【評価】

★★★☆☆

【感想】
今流行の「多様性」とは?
ダイバシティーだって?
文化、人種、国籍、 ジェンダー、障害、宗教、政治的信条などなど、
自分と違うってことは、簡単には受け入れられないってこと。
そこ、わかって「多様性」という言葉使ってる?
ふざけてもらっちゃ困るんだけど。
という事が書かれている本です。
なるほどね。とは思うが、あまり楽しめる本では無かった。
しかしながら、感情や情景の描写が巧みな文章に驚きました。
天才的です。
以下、むむっ、と思った文章です。

16 別々の部屋に入れておくべき感情なのに、その感情は時に廃油と化し、互いを滑らかに融合させてしまう。
44 八重子の右耳と左耳を結ぶ最短距離を、母の声が駆け抜けていく。
45 母の声が顔面を上下に割るように横断していく。
66 その視線には、たとえば海水浴から上がったままの体で人の車に乗り込むような無遠慮さがあり、
77 優芽が話し始めてくれたので、八重子から目を逸らしたことが自然な流れとなった。
78 馴染みのない単語の連なりに理解することを少々あきらめていたため、
91 いま私は、社会に良い影響を与えている一そう信じて疑わない顔面の油分が、照明を浴びてぴかぴかと光っている。
104 今日でその生命の全てを使い切るつもりなのかと思うほど。八月の太陽は容赦ない。
143 夏月は、空から滲み、垂れてくる夜を受け取る。
188 多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。自分の想像力の限界を突きつけられる言葉のはずだ。時に吐き気を催し、時に目を瞑りたくなるほど、自分に取って都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。
225 若い頃は筋肉でコーティングされていただろう豊橋の太ももは、皿にあけたゼリーのように、電車の座席の上にびったりと広がっている。
236 その想像力が、粘土を指の腹で押すように、生きていく時間を引き伸ばしてくれている。
281 その声は、ピアノのミスタッチみたいに響いた。
298 異性から粘り気のある視線を注がれる
311 それまでぐらついていた何かがその動きを止めた気がした。それは、力ずくで何かが抑え込んだというよりも、不安定な家具のそこに滑り止めのゴムシートか何かが差し込まれたような感覚だった。
336 大也の口の中に、苦い唾が広がる。
337 「多様性」って、自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされることばのはず