今年の正月も親父は特別老人ホームだ。親父のいない正月は2回目だ。
今日、面会に行ってきた。コロナで面会ができなかったこともあり、久しぶりの再会だ。正直、怖かった。親父の口から「お前は誰だ!」と言われるのではないかと。
施設に着くと、面会室に通された。4人掛けのテーブルが二つあり、アクリル板が置かれており、ひんやりと肌寒い。
介護士さんに連れられて親父が部屋に入ってきた。
親父と目があった。
その目は、疑い深い、少し怯えた目のように見えた。
明らかに、誰だか疑っている表情だ。
介護士さんが一言二言声をかけて、部屋を退室した。
親父と二人っきりになった。
アクリル板越しに声を掛けた。
「久しぶりやな、元気にしているか?」
「わかるかな?◯◯◯やで」
と名前を言った。
親父が「あー!」
と発音したようだった。
正確に理解しているかどうかわからないが、その発声で救われた。
その後、正月に家族で実家に集まったときの話をした。
写真も見せた。
写真を見ながら、
「俺が変わってもたんやな」
「なさけない」
この言葉が親父の口から何度も出た。
「女房がわからない」
と言っていた。
食事やお風呂など施設での暮らしの話を聞いても
「わからん」
だった。
次に口から出た言葉は、
「さむいな」
その言葉を聞いたとたん、もう、話を続けることができなくなった。
「介護士さん読んでくるわ」
これが、親父との再会最後の言葉になった。
介護士さんに声を掛けたあと、面会室にもどり
「また来るわ!」
なぜだか、この行動がとれなかった。
逃げるように施設をあとにしてしまった。
忘れてしまったことを「なさけない」と言った親父。
忘れられることを恐れた自分。
どっちが「なさけない」のか、
あの目が見れなくなった自分は、親父の10倍「なさけない」